ダック・コール

長いのと短いのどっちが好き?

と問われれば、迷わず短いのと答えるだろう。

小説の話である。

短編小説は自分の性格に合っていて、ときどき気分転換に読んで物語を堪能します。

短いからといって短時間で頭を悩ますことなく書けるわけもなく、ひとつの物語を作るのに当然何度も推敲し相当な時間を要するはずで、切れ味の鋭いエッジの利いた刃物のようにまとめ上げられた作品には作家の力量が分かりやすく現れるのではないかと思います。

短い文章なだけに粗があれば際立つし、辻褄が合わなければ読んでいて鼻につくでしょう。

アイデアが斬新でテーマに普遍性があっても全体をまとめ整える味のようなものが短編小説には必要だと思います。

たとえば冷蔵庫の食材をみてさっと料理を仕上げることができるのはある一定のテクニックと経験があれば可能ですが、その味は想像を超えて美味しくなければならないということです。

そうでなければ短いストーリーにこころを持っていかれることなんてないでしょう。

美味しい短編小説は時間が経ってもこころの中にその物語が生き生きと存在し続けます。

そこには真の共感があって、物語に力をもらえたり感性を育ててくれたりします。

先日読んだ短編小説をご紹介したいと思うのですが…


ダック・コール (ハヤカワ文庫JA)

この本は短編集でいくつかの違う物語が一冊にまとめられています。どの物語にも共通しているのが生き物に対しての当たり前の優しさでしょうか…きっと作家の心情が基本スタイルとして投影されているのだと思われます。

なかでも、「デコイとブンタ」というお話が個人的にはこころに残っています。

困ったことに短編小説は物語の筋を書いてしまうと読む楽しみを半分奪うことになるかもしれないので、どう紹介すればいいのか途方に暮れてしまいます。

結果的にこの物語は僕の普段意識しないこころのある場所に種のようなものを植え付けてくれました。

勇気の種です。

デコイというのはおとりとして狩猟につかわれる鳥の模型のことを指していて、小説ではこのデコイが擬人化され物語の進行役を務めています。

ブンタというのは学校でいじめられているような少年で物語の主人公ですが理由があって何も言葉で主張をしません。

小説のなかでは一切ブンタは言葉を発しません。

だからこそ彼の意志の強さや勇気が圧倒的な力を持つのだと思います。

この少年がデコイを拾って行動を共にすることから物語が始まります。

打ち捨てられたボロボロで役に立たないデコイをブンタは磨き上げて色を塗り蘇らせます。

息を吹き返したデコイを抱えてブンタは…

やはりこれ以上説明すると物語を読む楽しみが半減しますので書けません。

とにかくこの一遍だけでもこの本を手に取る価値はあります。

ブンタがどんな局面に立たされて、何を考え、どう行動したか…

その意志の強さと勇気を感じて力を分けてもらって欲しいです。

この物語を読んで勇気の種をこころに植え付けてください。

いろんな仕掛けが物語にはめ込まれていて、読んでいくうちにその仕掛けが生きてくるのです。

あぁ、こういうことだったのか…って読みながら何度かこころの中でつぶやいてました。

そして最後に自分のこころの中に勇気の種が植え付けられていることに気が付きます。

そんな美しい小説です。