彼は人によく優しいと言われるが、自分ではそうは思っていない。
ただ人と争うことが嫌なのだ。
たとえそれがゲームであっても、勝敗を競うのは彼にとっては争うことなので出来れば避けたいと常々思っていた。
それに比べ、彼女はとてもはっきりした性格で感情をストレートに言葉にするし概ね物事の順位にこだわったり明確な答えを誰に対しても要求する…もちろん自分自身にも。
ふたりの関係はとてもうまくいっているようにみえるけど、全く性格が違うため時には感情のぶつかり合いのような気まずい空気になったりもする。
当然、そんな時感情の起伏が激しい彼女の言葉には魂が乗り移って発熱しいろんな角度から彼を攻撃する。
彼は勢力の強い台風が過ぎ去るのを耐えるように黙ってそれを聞き、ただ聞いているだけだと無反応だと思われ彼女がまた激高してしまう恐れがあるのでときどき無難に受け答えをするように努めている。
彼女は感情を言葉に換えてしまうと次第に落ち着いてくる。彼女の表情や語気や呼吸を見ていると何となく嵐が過ぎつつあることを読み取ることができる。
彼女もそこまでくると少し言い過ぎたと感じるようになり、何となく自分の方にも非があることを自然に考え始める。
そして、彼はタイミングを見計らって起死回生の決め台詞を言うのである。
「コーヒー淹れようか…?」
彼女はしぶしぶそれを了承して黙って席を立ち湯を沸かすのである。
このように、コーヒーというのは人の気持ちを変える効果があります。
ただし、彼女が彼の淹れたコーヒーを美味しいと言ったことはない。
彼の淹れ方に問題があるのかもしれない。
ただ、彼女は相手が自分の感情を受け止めてくれたことに少なからず気持ちを動かされていたし、彼も嵐が過ぎ去ったことに心底ほっとしてコーヒーの香りに訳の分からない感謝の気持ちをごく自然に感じているのです。
僕も毎日コーヒーを飲みます。
カラダを冷やすとか眠れなくなるとか…マイナスイメージがあるけど、調べてみると脂肪燃焼を促進させるダイエット効果や血糖値の上昇を抑える糖尿病予防などのプラスの作用もあるようです。
カフェインには血管を収縮させる作用があるので、血管が拡張して起こるような偏頭痛などにも効果があるようですが、こういう作用ってさじ加減が非常に難しいのであまり期待して摂取すると逆に痛い目に遭いかねません。
適度に程よく習慣として楽しむのが食の醍醐味です。
僕がコーヒーを飲むのはもしかしたらメンタルをリセットするためなのかもしれません…もちろん味や香りを楽しみたいというタイミングで飲むには違いありませんけど…
ひとり分の豆を手動のミルで挽きます。
この手間が気持ちに多少の影響と言いますか、気付きと言いますか、そういった自分に向き合う時間として機能しているような気がしています。
豆を挽くときには豆を挽くときにしか聞くことのできない音があります。
豆が粉砕していく音です。
この音に耳を澄ませながら日々生じる気持ちのネガティブな塊のようなものも粉砕していくイメージで豆を挽きます。
とても短い時間なのですが、焦っていたりイライラしていたりするとそこでいったん呼吸を整えたりして自分の中に変化が生まれます。
豆を挽き終えた後のドリップも引き続いて自分と向き合う時間になります。
マグカップに一杯分のコーヒーが出来上がる一連の工程自体が精神に働きかけている特別な時間という感じです。
加えて香りや仕上がりの出来などが気持ちをポジティブな方向へと後押ししてくれれば言うことはありません。
1日に2杯くらいそういう手間をかけて自分に向き合ってコーヒーを楽しんでいます。
コーヒーは何となく男性が好む飲み物のような印象がありますが、女性がコーヒー好きというのもちょっとかっこいいような気がします。
飲むと胃がむかついたりするので…という人は消化液の分泌を促したりするので食後に楽しんだりすればいいと思います。
不眠症で悩んでいる方、ストレスを受けやすい妊婦さん、授乳中のお母さんなどカフェインを摂取できない方には美味しいカフェインレスのコーヒーもあるようなので、コーヒーで気分転換することは可能です。
豆はある程度いいものを買った方がいいかもしれません。
専門家がしっかり焙煎しているようなクオリティーの高いもの、ちょっと贅沢だと感じるかもしれませんが気持ちを整えてくれることを差し引いて一日に何杯も飲むものではないので考えようによっては安いものだと思います。
僕も上手なコーヒーの淹れ方を知らないので自分で入れたコーヒーが万全に美味しさを挽き出しているのか疑問に感じるときがありますが、不味いと思ったことはないので上質な豆は下手な淹れ方をフォローしてくれているのではないかと思ってます。
そろそろコーヒーでも入れて気持ちを整えます。